日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

筋トレの間隔を短くしたほうが筋肉は太くなる?

第59回 トレーニングの容量を高める(3)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。前回は、成長ホルモンの分泌と筋肥大との間に直接的な因果関係はないという話を紹介しました。その一方で、成長ホルモンの分泌は、筋トレの効果を予測する手段として活用できます。実際、筋トレで各セット間の間隔を短くしたところ、成長ホルモンの分泌が起こり、筋肥大効果も確認されています。

セット間のインターバルを短くしたほうが筋肥大効果は大きい

 前回まで、成長ホルモンの分泌と筋肥大との間には直接的な因果関係はない、というお話をしてきました。ただし、筋肥大が起こる刺激と、成長ホルモンが強く分泌される刺激とは共通性をもつ可能性が高いため、成長ホルモンの増加が質の高いトレーニングの目安になるということもお伝えしました。

トレーニング後の成長ホルモンの分泌を見ることで、長期的な筋肥大の効果を推測できる。(c)dolgachov -123rf

 かつて、成長ホルモンが筋肥大に直接的に関与していると考えられていた時代には、その分泌を手がかりにしてさまざまなトレーニング処方が試みられ、発表されました。

 アメリカの研究グループが1990年代前半に行った実験では、80%1RM程度の強度を使ってトレーニングをした場合、セット間のインターバルが3分あると成長ホルモンの分泌がほとんど起こらないことがわかりました。ところが、インターバルを1分に短縮すると、俄然強い成長ホルモンの分泌が起こったということです。

 そのトレーニングを長期間続けたところ、インターバル1分のほうが筋肥大効果は大きいという結果が出ました。この実験によって、筋肉を効率的に肥大させるにはセット間のインターバルをなるべく短くしたほうがいい、という説が出てきたわけです。

容量を高めるためのトレーニング法

 私の研究グループでも、成長ホルモンの分泌を増やすための処方をいくつか試してみました。すると、段階的に負荷を下げながらオールアウト(*)に追い込んでいくディセンディング法(ドロップセット法)などが、成長ホルモンを強く分泌させることがわかりました。これを続けた結果、長期的な筋肥大効果が大きくなることも確かめています。

 ディセンディング法は、ほとんどノーインターバルで回数を重ねていくので、1セットの容量(ボリューム)も大きくなります。それによって筋肉が肥大するわけです。

 ヘビーなトレーニングを数セット行った後、最後に負荷を50%まで下げて30回程度の高回数のセットを追加するという方法をホリスティック法といいます。また、負荷が上がらなくなったところで半分の可動範囲だけで続ける方法をワン・アンド・ハーフメソッドといいます(アーノルド・シュワルツェネッガーが好んで用いたことでも知られています)。いずれも通常のトレーニングに、オールアウトまで追い込むという要素が加わるので、やはりトレーニングの容量が大きくなり、長期的な筋肥大効果も高くなります。同時に、トレーニング後の成長ホルモンの分泌が増えることもわかっています。

 複数の種目を組み合わせる「セット法」を利用して容量を高める方法もあります。「フラッシングセット法」(この呼び方は最近あまり使われませんが)は、同系統の種目をノーインターバルで交互に続けていくやり方。例えばバーベルカールを行った後、少し負荷の軽いダンベルを使ってカールを続けます。それが終わったら、またバーベルカールに戻り、さらにダンベルカールを行います。

 複合関節動作のベンチプレスと、単関節動作のペックデックフライを交互に行うというのも、フラッシングセット法の範疇です。種目は少し変わりますが、同じ筋肉をターゲットにしているので、短時間で筋肉がオールアウトに追い込まれることになります。ちなみにフラッシングとは「充血」という意味。つまり、筋肉のパンプアップ(かつては日本でも、パンプアップは「血がたまる」という言い方をされていました)を目的として考案された方法です。このときも成長ホルモンの分泌は増えています。

通常のセット法よりも、ホリスティック法、ディセンディング法を行った後のほうが、成長ホルモンの分泌ははるかに増加する
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*オールアウトとは、筋肉を限界まで使った状態のことをいう

加圧トレ、スロトレも容量の高いトレーニングと同等の効果

 ディセンディング法などの方法のほかに、私たちが研究に取り組んだのが、軽い負荷で筋肥大を起こすための方法――加圧トレーニングでした。これはベルトを使って筋肉の血流を制限した状態で行うトレーニングですが、成長ホルモンの分泌を促す効果が極めて高いことがわかりました。負荷が軽いにもかかわらず、非常に容量の大きなトレーニングと同じレベルの成長ホルモン、さらに男性ホルモンも分泌されます。

 加圧トレーニングの理論をベースとして誕生したのが、スロートレーニングです。これは筋肉の力発揮を維持することで内圧を高め、血流を抑制するという方法です。これも成長ホルモンや男性ホルモンの分泌を強く刺激することがわかりました。

 一時期流行した「ビリーズブートキャンプ」も、低い姿勢を維持することで筋肉の力を抜かないという点でスロートレーニングと似た面をもつので、ある程度の時間行えば、やはり成長ホルモンの分泌は高くなると思います。

 このように、筋肥大に効果的なトレーニングを行うと、おそらくパラレリズム(並行現象)として成長ホルモンの分泌が高くなると考えられます。そのため成長ホルモンは、新しいトレーニングを導入する際に、その効果を予測する1つの手段として活用できます。3~6ヵ月といった長期間のデータを待つまでもなく、1回のトレーニング後の成長ホルモンの分泌を見ることで、長期的な効果をある程度推測できるからです。成長ホルモンとトレーニングの研究は、結果としてさまざまなトレーニングプログラムの特性を理解するヒントになったといえるでしょう。

新しいトレーニングを導入する際、
成長ホルモンの分泌は、その効果を
予測する1つの手段として活用できる。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。