日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

筋肉を太くするための、最適なトレーニングとは?

第57回 トレーニングの容量を高める(1)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。前回まで、メカニカルストレス(力学的な刺激)を高める方法を紹介してきました。しかし、強い力さえ与えれば筋肉が太くなるかというと、実はそうではないようです。筋肉を太くするには、トレーニングの「容量」が重要になってきます。

筋力のピークが高くても、反復回数が少ないと、筋肥大の効果は大きくならない。(c)hxdbzxy -123rf

刺激が強いだけでは筋肉は太くならない

 前回まで、メカニカルストレスを高める方法について説明してきました。

 筋肉に強い力学的な刺激を与えれば、それに対抗して筋肉を強化しようという適応が起こります。これは生物として当然起こる、非常にまっとうな適応だといえます。強い力が作用するのであれば、それに絶え得る筋肉をつくらないと生き延びていけないという身体の反応が起こり、それが長期的な適応という形で筋肉を太くし、骨を強くするという結果になって表れるわけです。

 それなら、強烈に強い力さえ与えればいいだろうという発想になりがちですが、実際に筋肉を太くするトレーニングはそんなに単純ではありません。強い力を与えることだけを考えるなら、ジャンプのように瞬間的に大きな刺激が加わるトレーニングがベストです。プライオメトリックトレーニングのように高い台から飛び降りた反動を利用してジャンプしたり、助走をつけて一気に上に跳び上がったりすると、瞬間的な床反力は500~600kgという数値になることもあり、筋肉にかかるストレスは200kgのバーベルを担いだスクワットよりも上ということになります。しかし、そのトレーニングで、ボディビルダーのように筋肉がどんどん太くなるかというと、決してそうではないわけです。

 何度か書いてきたように、筋肥大を促すトレーニングには、70%1RM(12回)~80%1RM(8回)程度の負荷を使い、最低でも3セット行うという“スタンダード”があります。95%1RM×2回というトレーニングを延々と続けても、筋肉を太くする効果はあまり大きくありません。これはトレーニング界の常識となっています。

 つまり、力学的な要素以外にも、筋肉を太くする重要な刺激があるということです。

力発揮の時間が短いと筋肉を太くする反応は起こりにくい

 プライオメトリックトレーニング、バリスティックトレーニングなどで筋肉を強くする効果が落ちてしまう理由は、力を出している時間が短いからです。筋力のピークが高くても、力発揮の時間が短いと、筋肉を太くする反応は起こりにくいようなのです。

 さらに、筋肉を太くするには仕事(エネルギーの量)も重要と考えられます。ある重さを一定の距離上げると、仕事は重さ×距離に相当します。トレーニングでは重さ×回数を「容量」(ボリューム)と表現し、これが仕事の目安になります

 具体的な例を挙げて説明してみましょう。例えば100%1RM(やっと1回上がる重さを1回上げる)というトレーニングは、反復回数が1回なのでトレーニングの容量は単純計算すると100×1。容量の単位でいうと、1セット当たり「100パーセンテージ1RMレップ」という値になります。では、80%1RMまで落とし、8回上げた場合はどうでしょう。80×8=640なので「640パーセンテージ1RMレップス」という容量になります。重さを20%落とすことによって、刺激の強度は0.8倍に下がりますが、1セット当たりのトレーニング容量は6.4倍にもなるのです。

 このように、ほんの少し強度を落とすことによってトレーニングの容量は大きく増えますが、強度を落としすぎると今度は強い力発揮という要素がダウンしてしまいます。強い力を出すということと、トレーニングのボリュームを増やすということとが、ちょうどよくマッチしたところが、70~80%1RM程度であろうと考えられます。

 ということで、適切な筋力トレーニングの方法は、少し負荷を軽くし、力を発揮する時間を長くするために上げ下ろしに1~2秒間かけて、じっくり動作を繰り返しながら十分なボリュームをこなす、ということになるわけです。

 表 1RMに対する割合と反復回数
% 1RM反復回数
100%1回
95%2回
93%3回
90%4回
87%5回
85%6回
80%8回
77%9回
75%10回
70%12回
67%15回
65%18回
60%20回
60%以下20回以上
仮に1RMを100kgとすると、100kgで1回上げたときは100kg×1=100kg、80%1RMで8回上げたときは80kg×8=640kg相当のトレーニングをしたということになる(トレーニング経験などによって、誤差が生じることがあります)

トレーニング容量を増やすことで筋肉に加わる刺激とは?

 では、トレーニング容量を増やすことにより、筋肉にはどういう刺激が加わっているのでしょうか。いろいろなものがあるなかで、かつて非常に重視されていたのが、「トレーニング容量に依存して、トレーニング後に筋肉に作用するホルモンの分泌が増える」という考え方でした。

 実際、成長ホルモンは100%1RMを1回上げてもあまり分泌されませんが、80%1RM×8回×3セットというトレーニングを行うと分泌が高まります。これについては私の研究室にもデータがありますし、アメリカやそのほかの国でも同様のデータをたくさん出しているので、この現象が事実であることは間違いありません。

 その結果から、筋肉を太くするには成長ホルモンが重要であると考えられてきました。私たちも、トレーニング後の成長ホルモンの分泌と筋肥大との関係について実験を繰り返していました。ただ、これは1990年から2000年代前半頃まで有力だった説で、最近の研究では、成長ホルモンはダイレクトに筋肥大に関わっていないのではないかという考え方が強くなってきています。このことについては、次回詳しくお話ししましょう。

「強い力を出す」ことと、
「トレーニングのボリュームを増やす」こととが、
ちょうどよくマッチしたところが、
70~80%1RM程度と考えられる


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。