日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

「一気に加速、すぐに力を抜く」-バリスティックトレーニングのポイント

第55回 メカニカルストレスを高める方法(2)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、メカニカルストレスが強い「バリスティックトレーニング」について見ていきます。このトレーニングは、「目の前にある負荷を瞬間的に強く加速させる」というもの。「ジャンプ」などがその典型例です。その目的は、単純に筋力を高めるというものではなく、筋力を実際の動作に結びつけることにあります。

バリスティックトレーニングはバーベルを使っても可能

 今回は、前回触れたバリスティックトレーニングの具体例から始めましょう。

バーベルやダンベルで筋トレする場合も、目の前にある負荷を瞬間的に強く加速するようにすれば、バリスティックトレーニングになる。(c)dolgachov-123rf

 例えば、ジャンプは典型的なバリスティックトレーニング。単純にピョンピョン跳ぶだけでも立派なトレーニングになります。

 また、バーベルやダンベル、ケーブルマシンを利用する場合も、目の前にある負荷を瞬間的に強く加速するようにすれば、バリスティックトレーニングになります。わかりやすい例としては、(重量挙げの)クリーンやスナッチなどが挙げられますが、ベンチスロー(バーベルを上に放り投げるように負荷を加速する。落下途中でバーベルが減速されるスミスマシンなどを利用する)、メディシンボールを使ったキャッチボールなどもバリスティックトレーニングといえます。

 いずれもポイントは「負荷を持ち上げる」のではなく、「一気に加速させ、すぐに力を抜く」こと。そこに力点を置いていれば、それはバリスティックトレーニングといえます。「瞬発力トレーニング」「負荷を加速するトレーニング」といったいい方をされることもありますが、表現の仕方が違うだけで本質的には同じトレーニングといえるでしょう。

切り返し動作が含まれるとプライオメトリックトレーニングに

 バリスティックトレーニングと同様のコンセプトで活用されているのが「プライオメトリックトレーニング(プライオメトリクス)」です。両者の区別は難しいのですが、プライオメトリックトレーニングにはバリスティックトレーニングの要素も入っている、と認識しておけば間違いないでしょう。

 例えばベンチスローなら、負荷を強く加速させて瞬間的に力を発揮するだけでなく(これだけならバリスティックトレーニング)、上から落ちてきたシャフトを受け取るときにブレーキをかけながら筋肉を伸張させ、すかさず切り返してもう一度投げるという動作全体を指して、プライオメトリックトレーニングと呼びます。これは「伸張-短縮サイクル」と呼ばれる運動で、負荷を投げる短縮性動作(コンセントリック)の前に、負荷を受け取る伸張性動作(エキセントリック)を行うことがポイントです。

 メディシンボールを使ったキャッチボールも同様で、投げるだけならバリスティックトレーニングですが、ボールを受け取って筋肉を伸張させてから投げ返すとプライオメトリックトレーニングになります。ジャンプも、しゃがんだ状態から跳ぶだけならバリスティックトレーニング。台の上から飛び降りた反動を利用して跳び上がるような動作の場合はプライオメトリックトレーニングです。

 バリスティックもプライオメトリックも、外見上の負荷強度は決して高くありません。しかし、瞬間的な力発揮は非常に大きくなるので、メカニカルストレスが強いトレーニングということになります。ということは、見た目にはそれほど大きな負荷がかかっていなくても、トレーニングとしては危険を伴うということでもあります。瞬間的に大きな力がかかることで、筋肉を痛めたり、腱を断裂したりといった障害も起こりやすいといえるでしょう。

 ですから、これらのトレーニングを行う際には、まず基本的な筋力トレーニングがしっかりできていることが大前提。しかも、単純に筋力がしっかりついていればOKというわけではなく、関節の構造に合った動きをしているかどうかも重要です。関節の伸展・屈曲が安定して行われない方向に動作をしたりすると、やはりケガの原因になってしまうことが考えられます。

回数や重さではなく大切なのは動作の質

図 通常のスクワットとバリスティックスクワットの床反力の変化
筆者が体重86㎏のときに、40㎏のバーベルを担ぎ、フォースプレート(床反力を計測する装置)の上でスクワットを行った際の床反力を示す。【B】では、しゃがみ込んだ瞬間にバーベルを上方向に加速させるような動作で行った
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 バリスティックトレーニングやプライオメトリックトレーニングは、その動作の仕方からもわかるように、単純に筋力を高めるというより、筋力を実際の動作に結びつけることが目的といえます。力の発揮の仕方が問題となるので、いいかげんに行っても効果はありません。何回行ったか、何kgの負荷を持ったかではなく、動作の質が問われるのです。

 しかし、このトレーニングの難しいところは、発揮された力の大きさが見えにくいという点です。バーベルを担いでいれば負荷の大きさが見た目でわかりますが、自重負荷でバリスティックトレーニングを行っている場合、瞬間的にどのくらいの力が発揮されたかを肉眼で確認することができません。

 そこで重要になるのは、指導者の眼力です。その動作でしっかり力が発揮されているかどうか。あるいはバリスティックトレーニングとして適切な力発揮がされているか。わかる人はわかると思いますが、わからない人にはさっぱりわからないでしょう。運動をしている本人でさえ、自分の体のなかでどの程度の力が発揮されたのか、感覚的にはほとんどわからないと思います。

 床反力計などの専門的な機械を使って測定できればいいのですが、なかなかそうもいきません。外から推測し、適切な判断を下せる人の存在が重要になるのです。そういう難しいトレーニングであることを、選手も指導者も認識しておく必要があるでしょう。

「負荷を持ち上げる」のではなく、
「一気に加速させ、すぐに力を抜く」こと。
そこに力点を置いていれば、
それはバリスティックトレーニングといえる。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。