日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

筋パワーを高める、高負荷・長インターバルトレーニング

第54回 メカニカルストレスを高める方法(1)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。前回は「メカニカルストレス」(力学的刺激)が、筋肉を太く強くする上で極めて重要だということを説明しました。では、メカニカルストレスを重視したトレーニング法には、どういったものがあるのでしょうか。代表的な方法として、高負荷・長インターバルトレーニング、バリスティックトレーニングなどの4つがあります。

メカニカルストレスを重視した4つのトレーニング方法

 前回は「メカニカルストレス」(力学的刺激)の重要性について説明しました。今回からは、筋肉を太く強くする上で決して避けて通れない、メカニカルストレスを与える方法を考えていきましょう。

高負荷・長インターバルトレーニングの目的は、高重量を挙げる筋力を高めること。高い筋力発揮を継続的に行うと神経系の抑制も低減され、筋力増強の効果が高くなる。(c)ANTONIO BALAGUER SOLER -123RF

 まずオーソドックスな筋力トレーニングの場合、80%1RM(1回挙げられる重さの80%)という負荷が標準的なメカニカルストレスです。その負荷を使って十分なトレーニング量(回数やセット数)をこなすことを前提とすると、「1秒で挙げ、1秒もしくは2秒で下ろす」というリズムで繰り返すことが標準的なトレーニングのやり方といえます。セット間のインターバルは長くしすぎず、1分程度に設定するのが適切でしょう。

 筋肥大のための刺激を与えることが目的であれば、この80%1RMを中心とした負荷でトレーニングをするのがベスト。ただし、メカニカルストレスを最重視したトレーニングを考えた場合には、もう1段階、刺激を高めるための工夫がいくつかあります。

 メカニカルストレスを高めるファクターとしては、「高い筋力発揮」と「十分な伸張性筋力の発揮」があり、そのための代表的な方法として、(1)高負荷・長インターバルトレーニング、(2)バリスティックトレーニング、(3)エキセントリックトレーニング、(4)フォーストレプストレーニングの4つが挙げられます。

高負荷トレーニングの目的は筋パワーを高めること

 (1)の高負荷・長インターバルトレーニングは、90~95%1RMの負荷強度を使ったトレーニングで、負荷が大きくなる分、回数は2~4回が限界になります。また、1セット終わった後、筋力が回復するまでにしばらく時間がかかるので、必然的にセット間のインターバルは3~5分と長くなります。

 1セットの挙上回数が少なく、インターバルが長いので、トレーニング全体で筋肉がこなす仕事は量的に少なくなります。仮に5分のインターバルをとったとすると、1時間のトレーニングを行っても8~10セットしかこなせません。トータルの挙上回数も最大で40回ほどになるので、トレーニングのボリュームは極めて小さくなります。

 ボリュームが小さいので、筋肉を太くする効果は高くありません(効果がないわけではありません)。このトレーニングの目的は筋肥大より、むしろ高重量を挙げる筋力を高めること。高い筋力発揮を継続的に行っていると神経系の抑制が低減されてくるので、筋力増強には非常に効果的です。

 そのためウェイトリフターやパワーリフターにとっては、この高負荷・長インターバルトレーニングが中心的な方法になるといえます。

バリスティックトレーニングのポイントは初期の加速度

 (2)のバリスティックトレーニングは、負荷強度とメカニカルストレスを別物として考える典型的なトレーニングで、メカニカルストレスは非常に強く、負荷強度は相対的に低いという特徴があります。

 例えば、何も負荷をかけずにジャンプをする場合、床反力(床を蹴ることによって戻ってくる力)はジャンプの高さに依存しますが、そこで瞬間的に発揮される力は自分の体重の4~5倍という大きなものになります。体重70kgの人が思い切りジャンプしたとすると、地面に対して300kgもの力を発揮することになるのです。

 負荷強度は自重(自分の体重)ですから、外的な負荷はゼロということになりますが、瞬間的な力発揮は300kg。通常のトレーニングであれば、発揮される力は負荷強度に相当するわけですから、230kg(300kg-体重70kg)のバーベルを担いで行うスクワットと同等の力が発揮されているということになります。

 ここで重要になるのは動きだしの加速度。力=質量×加速度なので、負荷が軽くても初期の加速度が大きければ、発揮される力そのものは大きくなります。高くジャンプするためには、上向きの大きな加速度が必要です。瞬間的に大きな力を発揮できれば加速度が大きくなり、高いジャンプが可能になるということになるわけです。

 瞬間的に出す力は大きいのですが、力発揮の持続時間は非常に短くなります。ジャンプする際も、地面に対して力を発揮している時間は1秒もありません。一瞬にして高い筋力が発揮され、次の瞬間にはストンと落ちる。そういう放物線を描くようなタイプの筋力発揮をするトレーニングを総称して、バリスティックトレーニングと呼びます。

 これはバーベルなどを使ったウェイト・トレーニングにも応用できます。最もメジャーなものは、クリーンやスナッチのようなクイックリフトです。かつてはアーノルド・シュワルツェネッガーも筋肉に激しい刺激を与えるために、好んでバリスティックトレーニングを行っていたそうです。

 一方、バリスティックトレーニングは通常のウェイト・トレーニングと比較すると、よりスポーツ動作に近いので、鍛えた筋力を実際の動作に結びつける上でも効果的です。次回はバリスティックトレーニングについて、もう少し詳しく解説したいと思います。

メカニカルストレスを高めるファクターには
「高い筋力発揮」と「十分な伸張性筋力の発揮」があり、
そのための4つの代表的なトレーニング法がある。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。