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病気にまつわる数字の話

TVショッピング番組では明らかにされない大事なこと

サプリや薬の効果は「割合」で考えよう

 北澤 京子=医療ジャーナリスト

「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」…。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? 病気にまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。

 「血圧が高め」「体脂肪が気になる」「毛が薄くなってきた」…。TVショッピング番組では、体の“お悩み”にターゲットを当てたさまざまな商品を販売しています。年を重ねると誰しも何らかの“お悩み”があるもので(筆者も例外ではありません)、つい、気になって見てしまいます。

「使ってよかった」体験は信用できる?

 お気づきの方も多いでしょうが、この手の商品の場合、TVショッピングでの紹介のされ方は、下記のように見事なまでにワンパターンです。

1)“お悩み”の強調(太っていてズボンがはけない、膝や腰が痛くて歩きづらい、など)
2)“商品”の紹介(天然の××から抽出、年とともに減る成分、など)
3)使ってよかったという“体験”(悩みが解消した、もう手放せない、など)
4)お値打ち“価格”(1カ月でわずか××円、お試しサービス、など)
5)今すぐお電話を!(番組終了後30分に限って割引、など)

 視聴者の購買意欲をそそるポイントは、やはり、3)の「使ってよかったという“体験”」でしょう。昔のジーンズがぶかぶかになった、坂道を元気に歩く、といった映像を見せられると、その商品の効果を信用したくなってしまいます。その体験がタレントなどの有名人であればなおさらです。他人の成功体験は、自分も成功するのではないかという期待を膨らませる強力なツールです。

TVショッピングの宣伝では、「使ったけどそれほど良くなかった」という人の割合は反映されていない。(©lajo_2/123RF.com)

 ですが、前回の記事(「200人が助かる」と「400人が死ぬ」は同じ?違う?)で紹介した「フレーミング効果」を知っている人なら、この映像だけでは満足しないのではないでしょうか。「使ってよかった」体験を見たら、逆に「それほどよくなかった」「かえって悪くなった」体験をした人もいるかもしれない(TVショッピング番組ではそういう人は出てこない)と、いったん立ち止まって考えたいものです。

 つまり、ある商品(治療法、予防法全般と言い換えてもよい)の効果を見極める場合、その商品を「使ってよかった」人数(=分子)だけではなく、「それほどよくなかった」「かえって悪くなった」人も含めて、その商品を使った総人数(=分母)を知る必要があります。そして、使ってよかった人が全体に占める割合(分子/分母)を求めるのです。

「分子」を見たら「分母」を意識する

 「血圧が高めの人」向けのサプリメントを半年間飲んで血圧が下がった人が5人いたとしましょう。同じサプリを半年間飲み続けて血圧が下がらなかった人が5人いれば、血圧が下がった人の割合は5÷(5+5)=5÷10=0.5=50%です。でも、血圧が下がらなかった人が10人いれば、割合は5÷(5+10)=5÷15≒0.33=33%になります。同様に、血圧が下がらなかった人が1000人いれば、割合は5÷(5+1000)=5÷1005≒0.005=0.5%です。

 血圧が下がった人数(5人)は同じでも、血圧が下がらなかった人数が変われば、降圧割合は大きく変わります。血圧が下がった割合が50%といわれるか、0.5%といわれるかで、効果に関する印象や、実際にその商品を買うかどうかという判断も変わってくるはずです。

 TVショッピングでは、「分母」が明らかにされる商品はあまり見かけません。ですので、その点は差し引いて考える必要があるのです。

リスクは、「実数」表示の方がこわさを感じやすい

図1◎ピクトグラフの例(バイパス手術に関するデータ)
[画像のクリックで拡大表示]
バイパス手術が必要な人が100人中16人であることを示している(出典:『Communicating Risks and Benefits: An Evidence-Based User’s Guide』p.58)

 商品の効果・効能や適用に関する割合は、小数(0.5)、パーセント(50%)、分数(5/10)、実数(10人中5人)など、いろいろな方法で表されます。どの方法で表すのがよいかという研究もいろいろ行われています。

 例えばアメリカで行われた研究によると、計算能力の低い人の場合、副作用の起こる割合をパーセント(例、10%)で示された方が、実数(100人中10人)で示されるより、副作用のこわさを感じにくかったそうです。もしかしたら、100人中10人という実際の数字を示された方が、リスクをよりリアルに感じるのかもしれません。ちなみに同じ実験で、計算能力の高い人の場合は、大きな差はありませんでした(Peters E, et al. Med Decis Making. 2011; 31: 432-6.)。

 米食品医薬品局(FDA)のリスクコミュニケーションのガイド(Communicating Rsiks and Benefits: An Evidence-Based User’s Guid)には、効果や副作用の起こる割合(リスク)を示す際は、単に「多い」とか「少ない」ではなく、きちんとした数値で示すこと、比較をしやすくするために分母にはきりのいい数字(100人、1000人など)を用いること、さらに、ピクトグラフなどの図を用いることなどをアドバイスしています(図1参照)。図にすると、「使ってよかった」人と「よくなかった」人を一覧できますので、確かに分かりやすいと思います。

 欧米の患者向け説明資料では、このような図を用いた表現方法が使われるようになってきています。こうした動きは、日本でも、少しずつ広がっていくのではないでしょうか。

【お知らせ】
このたび、翻訳書『過剰診断』(H.ギルバート・ウェルチ、リサ・シュワルツ、スティーヴン・ウォロシン著、北澤京子訳、筑摩書房、2014)を出版しました。早期診断・早期治療の度が過ぎると、過剰診断・過剰治療に陥ることがあるという問題提起をした本です。主に米国の事例を紹介していますが、日本でもあてはまる点が少なくなさそうだと、訳していて何度も思いました。ぜひご一読ください。
北澤京子(きたざわ きょうこ)
医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授
北澤京子(きたざわ きょうこ) 著書に『患者のための医療情報収集ガイド』(ちくま新書)、訳書に『病気の「数字」のウソを見抜く:医者に聞くべき10の質問』(日経BP社)、『過剰診断』(筑摩書房)など。(撮影:直江竜也)
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