日経グッデイ

立川らく朝の「わかっちゃいるけど…」

自分は若いと思うと、本当に若くなる?

妄想にふけるという健康法

 立川らく朝

健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。最終回です!

(イラスト:つぼいひろき)

「おたくのお爺さん、今度コーラスのグループに入ったんですって?」

「そうなのよ。若い人と一緒に歌うのが楽しいって」

「若いわねえ」

「そうなのよ、お爺ちゃん、気ばかり若いのよ。いつもお風呂に入ると練習してるわよ」

「え、お風呂で練習?」

「だって、お爺ちゃんのパート、バスなのよ」

 いつまでたっても気が若い人っていますよね。そんな人って、見た目も若かったりするものです。私、この前、運転免許証の更新に行ってきました。行くと写真を撮る部屋があって、次から次へと顔写真を撮っていきます。殺風景な椅子に座ると、向かい側にいる係員がモニターに映る顔を見ている。そして「カチャ、カチャ」とスイッチ(シャッターだよね)を押していくわけです。映ってる人の髪型も表情も着衣もお構いなし、顔の角度だけを確認しながら、追い立てるように「ハイ次、ハイ次…」。

 みんな行列して順番を待つのですが、その列に並んでいると、モニターに映る他の人の顔が見えるんですよ。どう見てもその顔は指名手配犯にしか見えない。それを眺めながら、「ああ、俺の顔もここに映って、犯罪者のような写真に収まるのか」と、ぞっとしておりました。あの無理矢理な流れ作業って、どう見たって人権無視。となると、あれは憲法違反? ま、どうでもいいけどさ。

 3年ぶりに撮った写真、古い免許証の写真と比べてみました。「おお、若くなってる」と感動。「ようし、これを家族に見せよう」と、帰ってさっそく家の者に見せると、「こっちの方が老けてるよねえ」と意見が一致。その老けている方の写真は、見事に今年の写真でした。3年前より若いというのは、私の勘違い、ひいき目、もっと言えば、妄想だったんですね。ちょっぴりショック。だけど、いいじゃん、いつまでも自分を若いと思って、ナニが悪いんだい!

自分はまだ若いんだ

 でも、自分を若いと感じることは、たとえ勘違いにせよ妄想にせよ、健康には良いことなんですよ。これは英国で発表されたデータですが、エクセター(Exeter)大学医学部の研究チームが、「自分は歳をとっているけど気持ちはまだ若い」という自覚を持つ人とそうでない人で、どのくらい健康状態が異なるかを調査したんですね。

 この調査の対象者は、英国の南西部に在住している65歳以上の29人。人数としては少ないかもしれませんが、それぞれに糖尿病などの生活習慣病の治療状況や生活習慣、それに最近の体調の変化、さらには自分の年齢に関する気持ちなどをこまめにインタビュー調査したというのですから、そう沢山の人を調べるわけにもいかないでしょう。

 さて、どんな結果になったかというと、自分は「まだ若い」と思っている人ほど体調の管理が良好で、精神面でも活動的だったんです。一方、「自分は歳をとっている」と考えている人では、身体活動と体力が低下していて、体調も優れない傾向があることが分かりました(*1)。

 もう1つ、面白いデータがあります。やはり英国のユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(the University College London)の研究チームが大規模な調査をしました(*2)。「自分を何歳くらいに感じているか」という質問を、50歳以上の男女、6489人にしたんですね。そして8年間、様々な健康状態を追跡調査して分かったことなのですが、加齢に伴って増えてくる様々な病気や生活習慣病、例えば心臓疾患、糖尿病、脳卒中、関節炎など(がんは除かれています)は、「自分は若い」と感じている人の方が程度は軽かったのだそうです。

 さらに8年後に死亡率も調べてみました。するとどうでしょう、実際の年齢より自分は老けていると感じている人の死亡率は、24.6%だったのですが、年齢より若いと感じている人の死亡率は、なんと14.3%だったんです。ちなみに、ほぼ実年齢と同じだと感じている人の死亡率は18.5%でした。

*1 Warmoth K, et al. ‘Thinking you're old and frail’: a qualitative study of frailty in older adults. Ageing and Society. Aug 2016;36(7):1483-1500.
*2 Rippon I, et al. Feeling Old vs Being Old:Associations Between Self-perceived Age and Mortality. JAMA Intern Med. 2015;175(2):307-309. doi:10.1001/jamainternmed.2014.6580.

妄想にふけろう

 つまりですね、普段から「自分は若い」と思ってる人は、健康で長生きしているということなんですよ。50歳、60歳という声を聞けば、なにかにつけて「ああ、歳だなあ」と思う事は年々増えてきます。これはもう仕様がない。ただその時に「俺はもう若くないんだ」と結論付けることは、とっても損なことなんですね。自分は老けたんだと思うと、本当に老けちゃう。「病は気から」っていうけど、「老いも気から」ですよ。たとえ無理矢理でも「自分は若いんだ」と思うことは、健康と長生きの秘訣なのかもしれません。

 もっともねえ、健康だから若い、と思っているのか、若いと思っているから健康なのか、それは分からないです。だけど、若さの基準なんてものは無いんですよね。だから「自分はまだまだ若いんだぞ」と思っていても、誰にも文句は言われないわけですよ。

 さあ、自分は若いんだ、という妄想に大いにふけろうじゃありませんか。え、「妄想にふけってるうちに老けちゃった」…あちゃー、そりゃないでしょう!

らく朝独演会のお知らせ
◆第1回「立川らく朝のごごらくご」
2016年10月10日(月・祝)14:00開演
紀尾井ホール(東京)

◆第45回「らく朝築地独演会」
2016年11月9日(水)19:00開演
築地本願寺ブディストホール(東京)

◆第2回「立川らく朝のごごらくご」
2016年12月25日(日)14:00開演
紀尾井ホール(東京)

お申込みはオフィスらく朝(03-6661-8832)、詳細はHPで。

BS日テレ毎月曜日「Dr.らく朝笑いの診察室」放送中。
ラジオNIKKEI第3金曜日「大人のラヂオ」パーソナリティ。
立川らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家(医学博士)
立川らく朝(たてかわ らくちょう) 1954年1月26日、長野県に生まれる。1979年、杏林大学医学部卒業。慶応義塾大学医学部内科学教室へ入局。主として脂質異常症の臨床と研究に従事。慶応健康相談センター(人間ドック)医長を勤める。
2000年、46歳にして立川志らく門下に入門、プロの落語家として再出発する。
2004年、立川流家元、立川談志に認められ二つ目昇進。医学博士でもある立場を生かし、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」という新ジャンルを開拓。マスコミなどで評判となり全国での公演に飛び回る毎日。また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。2015年10月1日付で真打昇進。笑いと健康学会理事。日本ペンクラブ会員。公式HPはこちら
(写真:増田伸也)