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Dr.らく朝の「わかっちゃいるけど・・・」

タバコ怪談噺

タバコ1箱で4時間寿命が縮む?

 立川らく朝

健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医師でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて。

(イラスト:つぼいひろき)

あるタバコメーカーが、“ 絶対に肺がんにならないタバコ ”を発売。その発表記者会見で、記者が興奮気味に質問した。

「いやあ画期的ですねえ、これぞまさに世界中の喫煙者が待ち望んでいた夢のタバコですよ。一体どんな秘密があるんですか、この絶対に肺がんにならないタバコには」

「はい、このタバコ、絶対に火がつかないんです」

 タバコが肺がんの原因になることは、今や小学生でも知っています。タバコがどれほど肺がんになりやすいかというと、吸わない人に比べて、男性は4.4倍、女性は2.8倍(*1)。この数字を高いと思うか、低いと思うか、あるいは「屁でもない」と思うか、それは本人の自由。ただね、隣でタバコの煙を吸わされている人にとっては大問題なんですね。

 たとえば、ご亭主が喫煙者という奥さんを調べてみたら、タバコを吸わない旦那の奥さんに比べて、肺がんになるリスクが、約2倍高いことがわかりました。しかもご亭主の喫煙本数が多いほどそのリスクは高まり、1日に20本未満だと1.7倍、20本以上では2.2倍だったそうです(*2)。もちろんこれは、奥さん自身はタバコを吸わない場合のデータ。これぞまさに受動喫煙の恐ろしさですよね。

 こうなると世のスモーカー亭主達は家の中ではタバコを吸わせてもらえない。「あなた、タバコ吸うんなら家の外に出てちょうだい」なんてね。こんな亭主達が集まると愚痴は尽きない。「もうどこにも住める場所がないよ。俺たちどこで、スモーカー」。

 じつは、タバコは肺がんだけに限らず、ほとんどのがんのリスクになっています。とくに喉頭がんの場合、患者の9割以上は喫煙者。つまり、喉頭がんになった人のほとんどは、タバコさえ吸わなければがんになることもなかったかもしれないってわけ。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」なんて諺があるけど、忘れてる場合じゃないんです。

 タバコが怖いのはがんだけじゃない。ほらあ、タバコの箱に書いてある通り、心筋梗塞、高血圧、脳血管障害、喘息、肺気腫などのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、さらには糖尿病に至るまで、ほとんどの生活習慣病の原因になります。これがどれほど健康に悪いかは想像に難くないんですが、こんなデータもあるんですよ。20歳までに喫煙を開始した人を調べてみると、喫煙しない人に比べて、男性で8年、女性で10年も寿命が縮まるんですって(*3)。

 ついこの前の成人の日、仕事があって成人式の会場に行ったのですが、会場の喫煙コーナーに新成人が群がっていました。さすがに振り袖姿は無かったものの、もし彼らが成人前から一日にタバコ23本(上のデータの基になった男性の平均喫煙本数)を40年間毎日吸い続け、そして還暦を待たずに8年間寿命を縮めて亡くなるとしたら、タバコ1本がどんなリスクをもたらしたと思いますか。

 これは私の少し乱暴な計算ですが、タバコ1本吸うごとに、およそ12~13分間寿命を縮めてきたことになるんです。ということはですよ、売店で「タバコ頂戴」と1箱買うたんびに、およそ4時間自分の寿命を縮めてるってわけ。女性ならもっと被害は大きくなります。若い人達が自ら寿命を縮めている姿なんて、成人式で見たくないですよね。どうです皆さん、ぞっとしてきましたか。これ、怪談噺よりずっと怖いでしょ。

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