日経グッデイ

医学博士 大西睦子 食・医療・健康のナゾ

熱中症は、お盆後こそ油断ならない!

米国では、1999年から2009年までに7800人以上が猛暑で死亡!?

 大西睦子

 食、医療など健康にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、米ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 二十四節気の立秋が過ぎても、暑い日が続く日本の夏。地球温暖化の影響か、最近では9月に入っても東京など関東地方で30℃を超える真夏日になることも珍しくありません。「暦の上では秋だから」などと油断していると、思わぬ時期に熱中症になってしまう可能性も。今回は「お盆以降に気を付けたい熱中症対策」を解説します。

平均気温の高い年、トップ10の9つが2000年代

立秋を過ぎても、暑さが続いています。お盆を過ぎれば暑さも少しは落ち着くかと油断していると、思わぬ時期に熱中症になってしまう可能性があります。(c)Olaf Speier -123rf

 米航空宇宙局(NASA)が2016年5月に「2016年は(世界的に)史上最も暑い年」になるという可能性を示し、日本でも話題になりました。最高気温も毎年のように更新され、いったいどこまで暑くなるのかと心配になってきます。

 日本では熱中症の発症数が急増する7月は熱中症予防強化月間になっていますが、この夏も、猛暑による熱中症が問題になっています。

■参考文献
政府広報オンライン「熱中症は予防が大事!

 実際、地球の温暖化により、世界の気候が大きく変動しています。気象庁は「私たちの社会は、それぞれの地域の気候を背景にかたちづくられている。その気候が、私たちが経験したことのないものに変わりつつある」と警告しています。

■参考文献
気象庁「地球温暖化問題とは

 地球の温暖化は海、大気、地上に多くの変化をもたらします。海水は膨張し、海面の水位が世界的に上昇しています。NASAによると、衛星による記録が1979年に始まって以来、地球の氷の面積は着実に減少し続けているといいます。

 例えば1979年から2015年までの観察期間、北極域の海氷域面積は減少しています。また、19~20世紀の100年間で、世界平均海面水位は約17cm上昇しました。さらにこの10年間で上昇する速度は、20世紀にくらべて倍増しています。グリーンランドの氷床の一部融解が問題になっていますが、このまま温暖化が続き、グリーンランドの氷床が完全に融解すると、海面は現在より6メートル上昇すると予測されています。当然その分、地上の面積は減ります。

■参考文献
NASA「Climate change: How do we know?

 過去134年の記録中、平均気温の高い年トップ10は、1998年を除いてすべて2000年以降に集中しています。そして記録上、最も平均気温の高い年は2015年だったといい、2016年はさらにそれを上回りそうでもあります。NASAの情報によると、2016年1月から6月のそれぞれの月は1880年以降、世界的に最も温かい月という記録をすでに樹立しています。

温暖化で1年を通じて健康に深刻な影響

 このような温暖化による変化が懸念されるなか、2016年4月、米ホワイトハウスは米国地球変動研究プログラム(USGCRP)の報告書を発表しました。報告書で気候変動が現在および将来、人間の健康に影響を与える具体例が示されています。

[1]頻繁に起きる長く厳しい猛暑による、熱中症(熱けいれん、熱疲労、熱射病)の発症の増加
[2]気温の上昇や降水量の変化で、オゾンや浮遊粒子、花粉が増加し、大気の質が悪化するため、アレルギー、喘息、心血管疾患や呼吸器疾患、早死のリスクが高まる
[3]水面の上昇、激しい洪水、ハリケーンや嵐による怪我や死亡、水質汚染の悪化による消化管疾患の発症が高まる
[4]ダニの生息地域が拡大し、ライム病のリスクが高まる(他にもデング熱、ジカ熱やマラリアなど、蚊が媒介する感染症もリスクが高まりますね)
[5]高温多湿によるサルモネラなどの食中毒の発生が高まる
[6]災害、トラウマ心的外傷による精神的な悲痛や社会的影響が広がる
[7]気候変動と二酸化炭素の増加による、食品の安全性、栄養、流通が変化する


■参考文献
U.S. Global Change Research Program「The Impacts of Climate Change on Human Health in the United States: A Scientific Assessment

 温暖化が進めば、猛暑は夏だけ気にすればいいものではなくなります。すでに私たちは1年を通じて健康に深刻な影響を受けるようになってきているのです。

1999年から2009年までに7800人以上が猛暑で死亡

 ところで、猛暑とは何でしょうか?

 米疾病予防管理センター(CDC)によると、合意した猛暑の定義はありませんが、ほとんどの定義は長期間(数日以上)異常に暑い気候が続き、人間の健康に害を及ぼす可能性があることを示します。

 猛暑にさらされると不快感や疲労、熱けいれんが引き起こされ、病院や緊急治療室の利用が高まります。また死亡に至るケースがあることはご存じの通りで、実際、1999年から2009年までに7800人以上の米国人が猛暑由来で死亡しています。死亡に至らないまでも、猛暑は上記のようなさまざまな健康への悪影響を及ぼします。また、猛暑は既存の病状を悪化させることがありますが、そのようなケースはカウントすることは難しいのです。

 もちろんこれは米国だけではなく、世界中の問題になっています。

 例えば、2003年には欧州における猛暑のため、フランスだけで1万4800人が死亡しました。厚生労働省によれば日本でも2013年に1077人、2014年に529人が熱中症で死亡しています。

 年代についても、特定の層だけが猛暑を気にすればいいわけではありません。誰もが準備、対応しなければならないのです。ただ、特に子どもたちと、65歳以上の高齢者、特定の障害者、貧困や社会的孤立そしてホームレスの方は、猛暑による健康への問題が生じるリスクがより高まる傾向があります。都市部在住者は、将来今よりさらに「ヒートアイランド」現象にさらされるリスクが高まっています。

■参考文献
Centers for Disease Control and Prevention「CLIMATE CHANGE and EXTREME HEAT EVENTS

対策は個別に考えなければならない

 熱中症の予防のためには、なるべく涼しい場所で過ごし水分補給に注意しなければなりません。CDCは、特に以下の方に、猛暑における個別のアドバイスをしています。

■参考文献
Centers for Disease Control and Prevention「Heat and Older Adults

65歳以上の高齢者、慢性疾患をもつ方:エアコン付きの建物で過ごす

 65歳以上の高齢者、慢性疾患を持つ方は体が温度の変化の感知、応答をしにくくなります。また内服薬が、猛暑の体への影響を悪化させることがあります。

[1]できるだけエアコン付きの建物の中にいましょう。
[2]扇風機に依存しないでください。
[3]喉の渇きを待たずに、水をいつもより多めに飲みましょう。
[4]オーブンの使用は止めましょう。家の温度が上がります。
[5]ゆったりした、軽量、薄い色の衣服を着用しましょう。
[6]体を冷却するために、冷たいシャワーやお風呂を利用しましょう。
[7]健康と安全を確認するために、地域のニュースをチェックしましょう。
[7]筋けいれん、頭痛、吐き気や嘔吐などの熱関連の病気の症状が、ご自身や知り合いに出たら、直ちに医療機関を受診してください。

乳幼児や小児:車に置き去りはNG! 服は薄い色のものを

 乳幼児や小児は体への猛暑の影響が強いため、涼しい場所で過ごし水分補給に注意しなければなりません。

[1]車の中に、乳幼児や小児を置き去りにしないでください。
[2]ゆったりした、軽量で、薄い色の服を着させてください。
[3]熱関連の病気の症状を認めたら、直ちに医療機関を受診してください。

屋外労働者:アルコールや糖分を多く含む液体の摂取を避ける!

[1]喉の渇きを待たずに、作業中に水を毎時2~4杯飲みましょう。
[2]アルコールや糖分を多く含む液体の摂取を避けましょう。
[3]日焼け止めを使用しましょう。
[4]真昼の熱を避けるために、午前と午後に仕事ができるか考慮しましょう。
[5]つば付きの帽子、ゆったりした、軽量、薄い色の衣服を着用しましょう。
[6]休憩中や仕事の後は、エアコン付きの建物の中で過ごしましょう。
[7]体を冷やしたりと水を飲んだりするために、休憩を取ることを同僚にも奨励しましょう。
[8]熱関連の病気の症状がご自身や知り合いに出たら、直ちに医療機関を受診してください。

アスリート:筋肉のけいれんは、熱関連の病気の早期に見られる徴候!

[1]衣類を着用し、日焼け止めを使用しましょう。
[2]トレーニングは真昼を避けましょう。
[3]ゆっくりとした活動から開始し、徐々にペースを高めましょう。
[4]喉の渇きを待たず、いつもより多めの水分補給をしてください。
[5]筋肉のけいれんは、熱関連の病気の早期に見られる徴候の可能性があります。
[6]チームメイトはお互いの状態をチェックしてください。
[7]ゆったりした、軽く薄い色の衣服を着用しましょう。
[8]熱関連の病気の症状がご自身や知り合いに出たら、直ちに医療機関を受診してください。

 熱中症への注意喚起は多く耳にしますが、改めて予防を確認しておいてくださいね。また、地球温暖化のさらなる進行を防ぐために、私たち個人ができる省エネに積極的に取り組みましょう!

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2016年8月25日付け記事からの転載です。